厚生労働省から以下の統計上が出ています。
賃金統計基本情報調査
結論から申し上げて地方のITエンジニアの年収は確信を持って上がっているとは言えない状態です。
賃金統計基本情報調査から下記の条件でデータを抽出し、東京都、岡山県、沖縄県における情報処理に係る人材の年収を私が概算したものです。
年収(千円)=きまって支給する現金給与額(*1)×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額(*2)
男女の区別なく、全年齢を母集団としています。
また、従業員100人以上になると地方のIT企業では企業数が少なくなると推察し、従業員が10人~99人の企業に勤める人を対象としています。
チャートをご覧いただくと分かる通り、上げ下げを繰り返していますが、明確に上昇トレンドを描いているとは言えない状態です。
しかし気になる点は、直近の2018年を見ると東京が急降下しているにも関わらず、岡山県と沖縄県ではどちらも上昇しているということです。特に沖縄県の上昇は顕著です。
このような状態になっている背景を私なりの解釈でいくつかの視点から考察したいと思います。
IT業界ではあらゆるところで競争が起き、変化できないITエンジニアの年収は下がるのみ
1.従来型IT市場が下降トレンド入りした。
都市圏において従来型IT市場は多重下請け構造により人材の確保が行われ、プロジェクトが遂行されてきました。
しかし、みずほ銀行システム統合プロジェクトに代表される従来型ITプロジェクトは減少していると推察します。今まで大手の下請けとして要員確保の役割を担った10人~99人規模のIT企業においては仕事が取りづらくなり、値下げ競争によってIT人材の年収が下がったのではと推察します。
経済産業省による「IT人材需給の調査」では従来型IT市場は2017年をピークに縮小する転換点に来ているのです。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/index.html#jinzaijukyuu
2.都市圏のIT企業と地方のIT企業の価格競争
オフショア(海外)のIT企業に外注化することでコストダウンを図ることと同じ目的で日本国内の地方に開発拠点を作り、リモート開発をするニアショア開発が盛んです。
また、最近は自然災害が増えていますので拠点を分散させることは事業継続性の観点からも都市圏の大企業にとってはメリットがあります。
つまりニアショア開発の推進で地方IT人材にとっては仕事を得る機会が増えていていると推察されます。
都市圏のIT企業はこの観点からも市場からの逆風を受けているのではないでしょうか。
私は今年地元にUターン転職したのですが、ニアショア拠点でのブリッジSE兼PMをした経験があったので、ニアショア開発拠点の立ち上げをやってほしいというオファーをかなりの件数うけました。
3.IT人材の増加による企業内競争の増加
最近、大手IT企業の人員削減に関する報道を目にします。
なぜか決まって45歳以上がターゲットにされています。
そうかと思えば優秀なエンジニアには高額な報酬を支払うというニュースもあります。
従来であればテレビ局や都銀などの金融機関に就職していた学生がIT業界を目指す人が増えてきていると聞きます。
実際にIT人材白書によると以下のようにIT人材の数は増加しています。
ちなみにIT人材白書の集計に外国人エンジニアは含まれていません。
統計では集計されていないのですが、外国人IT人材も確実に増加していると思っています。
私が東京で働いていた時には中国人、韓国人、インド人、オーストラリア人などなど、各国の人材が集まってきており、プロジェクトを行っていました。
また、日経コンピュータ2019年11月14日号で不足するAIエンジニアは海外から連れて来るべしという特集が組まれています。
最先端のIT技術を持ったエンジニアが日本で確保できないのでは海外から連れてくるしかありません。
下記のチャートを見てください。
インドネシア、中国、タイ、ベトナム等の各国ではITエンジニアはその国の平均年収と比べて相当高い給料をもらっているのです。
しかしそれでも、日本で働くほうが高い収入を得ることがデキます。
高い収入を得ることが目的ですから東京で働くはずです。
地方で外国人エンジニアを見る機会はほとんどありません。
この点から東京の中小企業に勤めるITエンジニアはこれから入ってくる優秀な新卒学生、外国人と競合することになります。
4.IT開発ツールの進化
- OUT Systemに代表されるローコード開発ツール
- 比較的習得が容易なRPAを使いビジネス部門だけでシステムを自動化する。
皮肉な事にITツールを販売する我々IT業界が高度なツールを販売すればIT人材にニーズは減ります。
RPAで自分の仕事を自動化した事務スタッフがRPAの技術を習得し、更に他の業務についても自動化するというビジネス部門主体でIT化を進める事例も出てきました。
このような先進的な事例は都市部の企業で試行されるはずです。わざわざ遠い地方に出向いて導入するより時間がかからないからです。
しかし、いずれ地方にも最先端のITツールは伝播されITエンジニアとの競合が地方でも起きるでしょう。
5.インターネットの進化
働き方改革をきっかけとしてリモートワーク、副業の推進などが行われています。
東京で住んでいても、地方で住んでいても東京にある会社で働けるという事例が増えています。
実際に私が以前勤めていた会社では東京オフィスに在籍しているにも関わらず、親の介護のために神戸住んでいるという人がいました。
週に一回程はオフィスに出社しますが、それ以外はリモートで働いていました。
また、クラウドソーシング市場が拡大したことで外注先がどこに住んでいる人なのか気にすることはほとんどありません。
もはや都市部か地方かという枠を超えて世界のどこにいても関係ないということが起こっています。
素晴らしいWEBサービスがあれば、そのサービスがどこで作られているのかなど気になりません。
インターネットによって都道府県の境界どころか世界中のエンジニアと競合することになっていくはずです。
まとめ
「地方のITエンジニアの年収は上がっているのでしょうか?」
→下がってもいませんが上がってもいません。
都市部や地方にある大手システム会社のパートナー会社で下請け仕事がメインの場合、経営は厳しいものになるでしょう。
地方のITエンジニアは都市部のIT会社に就職してもそれほど給料が上がるということは今後少なくなるのではと推察します。
地方で働くか都市部で働くかという視点だけではなく、将来を予測し、自分はどのようなキャリアを構築するべきなのかよくよく考えないといけない時代になってきているのだと、この記事を書きながら自省しました。
じゃあの ノシ
(*1)■きまって支給する現金給与額
労働契約、労働協約あるいは事業所の就業規則などによってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって6月分として支給された現金給与額をいう。手取り額でなく、所得税、社会保険料などを控除する前の額である。
現金給与額には、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、超過労働給与額も含まれる。1か月を超え、3か月以内の期間で算定される給与についても、6月に支給されたものは含まれ、遅払いなどで支払いが遅れても、6月分となっているものは含まれる。給与改訂に伴う5月分以前の追給額は含まれない。
現金給与のみであり、現物給与は含んでいない。
(*2)■年間賞与その他特別給与額
昨年1年間(原則として調査前年の1月から12月までの1年間)における賞与、期末手当等特別給与額(いわゆるボーナス)をいう。
賞与、期末手当等特別給与額には、一時的又は突発的理由に基づいて、あらかじめ定められた労働契約や就業規則等によらないで支払われた給与又は労働協約あるいは就業規則によりあらかじめ支給条件、算定方法が定められていても、算定期間が3か月を超えて支払われる給与の額および支給事由の発生が不確定なもの、新しい協約によって過去にさかのぼって算定された給与の追給額も含まれる。